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遥と巡の鉄道探訪 第1回 室蘭本線・小幌駅

小幌駅名票  室蘭本線の小幌駅はいくつかの長大トンネルの谷間に存在するいわゆる秘境駅です。元々は信号場として開設され、その後、信号所ながら客扱いがあったので仮乗降場に。そして、国鉄分割民営化でJR北海道に継承された際に駅に昇格しました。この駅は三方を山、一方を海に囲まれていて鉄道、船舶以外で訪れるのはとても難しい場所にあります。(実際は、近接する国道37号線から徒歩で到達できるルートもありますが、軽い気持ちで行くとえらい目に遭います)それ故、秘境駅を巡る鉄道ファンの間で密かな……というか、かなりな人気スポットになっています。近くの駅から汽車に乗って訪れると、意外と“同業者”さんとすれ違います。いちおう、秘境なのに。あまり、秘境感が漂っていません。ちょっと残念。しかし、夏場であれば、そのまま海岸線に降りていき、小幌洞窟遺跡、岩屋観音さまのもとに訪れるとよいかもしれません。ベンチに座ってぼや〜っと海を眺めていると気持ちがいい場所です。海岸への往復ついでに森林浴(?)や、ちょっとした登山(?)もできますから、健康になれるかもしれません。




巡「さて、早速、参りましょうか、お姉様」
遥「何よ、急にかしこまって。――そういう時のキミって、大概、何かを企んでるわよね?」
巡「別に企んでなんかないよ。あ〜、いや、でも、企んでないと言ったウソになるのかなぁ。
  だってさ、ボクと遥の二人きりであの秘境駅ランキングNo.1の小幌駅に行こうって言うんだよ」
遥「何を今更。折角、北海道に住んでいるんだから、行かないなんてあり得ないじゃない」
巡「まあ、ここまで来ちゃったら、もう、次の駅なんだけどね」
遥「イグザクトリー! あたしたちは今、静狩駅、え〜と……、室蘭本線を長万部方面から小幌駅にアプローチするところなのです。
  その小幌駅の一個手前が静狩駅というワケ」
巡「それが写真01。木造建築の駅舎がとてもよい雰囲気を醸しだしています」

静狩駅1
静狩駅2
  写真01 静狩駅駅舎 写真02 静狩駅構内・小幌方面向き  

巡「と言うことで、静狩、小幌間の6.9km、トンネルだらけをくぐり抜けて、キハ40-1703から降り立ち秘境駅・小幌に到着!」
遥「トンネルばっかりで車窓がつまんない……」
巡「え~、貴重なコメントをありがとうございます。――。さて……」
遥「こらっ!」
巡「だって、遥の妄言につきあってたら、いつまでたっても終わらない上に疲れるんだもの」
遥「あ~はいはい」
巡「仕切り直して、折角、小幌にまで来たので、小幌洞穴遺跡と岩屋観音さまを拝みに行ってきましょう。
  と言うことで、茂みの細道を、レッツウォーキング!」
遥「うぇ〜ん」(泣

キハ40-1703 行き先案内
  写真03 キハ40-1703 小幌駅にて 写真04 行き先案内  

遥「茂みの細道は細道なんだけど、ほとんど、けもの道じゃないの~。しかも、進行方向右手側は断崖絶壁ときたもので、
  ちょっとでも足を滑らせたら真っ逆さまでしょうよぉ。あたしはまだ、死にたくないわよ!」
巡「転げなきゃいいだけなので、頑張ってください、お姉様」
遥「それにしたって、この山の中よ。ここから転落しなくたって、クマにでも襲われたら……」
巡「遥って、そんなに心配性だったっけ? なんかこう、もっと大胆不敵だったような気がするんだけど……?」
遥「あたしにだって、怖いものはあるのよ! 無頓着なキミと一緒にしないでもらえる?」
巡「え~? 別に細かいことはどうだっていいんだけどさ?」
遥「何なのよっ! それなら、最初からおかしな突っ込みはしないで!」
巡「はいはい。――おっと、山火注意だって、火の気のものは使っちゃダメだよ」
遥「火の気のものなんて、一個も持ってないわよ。それよりも、さっきからズドン、ズドンって大砲を撃ってるような大きな音はなんなのよぉ~」
巡「あ~あれ。ここからはほとんど見えないんだけど、かなり近くに国道37号線の礼文華橋があってね、
  車が通るたびに橋の接合部とタイヤが大きな摩擦音を出しているんだよ。だから、まあ、大丈夫。大砲を撃ったり、
  遥を狙撃しようってワケじゃないからね」
遥「いくら大丈夫だからって、大きな音は怖いのよぉ」
巡「そんな事より、足下だよ、遥。ここから転げ落ちたら、
  誰も助けてくれないよ。と言うか、きっと行方不明者の
  リスト入りして、そのまま未発見のまま失踪に
  なっちゃいそう」
遥「イヤよ、いや。こんな花も恥じらう乙女のあたしが……」
巡「な~に言ってるんだか。寝言は寝てるときだけにしてよ。
  と言ってる間に海が見えました」

登山用ロープ
山火注意
  写真05 山火注意 写真06 登山用ロープ  


遥「わお! 本当だ。キレイな海が見えてるね。って、ちらっと見えてるあの……あの……あれはなにかしら?」
巡「あの、あれ? って何のあれ? って、あれか! 桟橋だよ」
遥「桟橋? どうしてこんなところに桟橋なんて必要なの?」
巡「慌てない、慌てない。海岸線にまで辿り着いたら説明してあげるよ。説明に気をとられながら歩いたら、
  転がって下まで行けそうだから、足下に集中しないとね」
遥「はぁ〜い」

樹木の隙間から 細道の末端から海岸を
  写真07 樹木の隙間から 写真08 細道の末端から海岸を  


~~黙々と歩いて~~

巡「辿り着きました! お疲れ様、遥」
遥「疲れたわよぉ。もう、帰りたい……」
巡「いやいや。まだ着いたばかりでしょ。帰るのは早すぎます。と言うか、帰りの汽車はまだまだ来ないので諦めてください。
  それに帰るにしてもまた、同じだけ歩くんだけど……?」
遥「それもイヤ」
巡「どうやって帰るつもりなんだろう、この人……。まあ、いいや。それより、ほら、折角、崖を降りてここまで来たんだから、
  夏の海を満喫していこうよ。誰もいなくて、プライベートビーチみたいでとってもステキだよ!」
遥「そんなものかしらねぇ~」
巡「そんなもんだよ。ま、どっちにしてもさっきの汽車で降りたのはボクと姉さんだけだし、
  帰りの汽車が来るまでの全列車は通過だから、ここでしばら~く二人っきりってワケだよ」
遥「弟と二人っきりでもしょうがないのよねぇ……」
巡「むっ。連れに弟を選んだのは姉さんでしょ。我慢しなさい」
遥「はぁ~い」
巡「さて、さっき細道から見えた桟橋ですが、あれは何のためにあるかというと、九月の中頃に行う祭礼のためのそうだよ。
  陸路から来るには結構大変だったでしょ? だから、海路から船で乗り付けるみたい」
遥「はぁ~ん。それにしても海の水が透き通っていてキレイよねぇ」
巡「あんまり興味もなさそうだね……。ま。別にいいけど。じゃ、岩屋観音さまのところへ……。と言うことなんですが、
  初対面のどこぞの表六玉が突然、写真撮影をした上に、紹介のためにそのお姿を晒すというのも失礼極まりないと思うので、
  今回はなしの方向で。次の機会にお許しがもらえそうなら、出させてもらおうかなと……」
遥「あら、意外に意外、巡ったら、きっちりと礼節を重んじてるのね」
巡「まあね。遥だって、どこの誰とも知らない人に写真撮られて勝手にどこかで紹介されたらイヤでしょう? 困るでしょう?」
遥「それはそうでしょうよ」
巡「だよね。そゆことなので、観音さまの近くにあった看板のご説明を」
遥「よろしく、どうぞ」

桟橋 岩屋観音
  写真09 小幌の桟橋 写真10 岩屋観音案内板  

巡「この看板には『岩屋観音、通称 首なし観音、1666年、僧円宝が、この洞くつで仏像を彫って安置した。修行の僧が、
  熊に襲われてこの仏像の後に隠れて、難を逃れた。仏像の首を熊に食いちぎられて以来「首なし観音」と言われて来た。
  1894年、泉藤兵衛により首は修復された。と伝えられている。祭礼は、9月16日、17日に行われる。豊浦町教育委員会』
  と書かれています」
遥「軽~く、さらっと事も無げに言ってくれちゃったけど、かなり怖いことが書いてなかった?」
巡「そお? 全く極一般的なことを極普通に言っただけだよ」
遥「ウソ! 熊とか、首がもげたとか何だとか言ってたじゃない!」
遥「そんな事言っても看板に書いてあるし。もうずっと昔のことだから心配しなくても大丈夫だと思うよ。
  熊さんだって道路がうるさいところには住み着かないだろうしさ。それに、心配するだけ意味ないよ。言ったでしょ?
  ここにはボクと姉さんしかいないんだから……ね?」
遥「それってどういう意味よ!
巡「言葉の通りなんだけどね。まあ、天気もいいから、海でも見ながら、ひなたぼっこでもしてようか? 
  帰りの汽車までえ〜とぉ、まだ、二時間くらいあるから」
遥「……。うん……」(諦めた様子で

ベンチ

遥「ふぃ〜。のどかよね……」
巡「気に入った?」
遥「気に入るも気に入らないもないんだけど……。
  ——ベンチに座っていると落ち着くわぁ……」
巡「おばあちゃんじゃないんだから、も
  うちょっと若々しい感じでね?」
遥「うるさい。キミにはあたしの何たるかが
  わかっておらんのだ!」
巡「特にわかりたくもないけど。それにしてもまあ、
  こんな狭い場所だけど、ここから、内浦湾を挟んで
  見える渡島半島が素敵にステキですね〜」
遥「ですね〜」

  写真11 ベンチ
 
右岸 中央
  写真12 海岸に立って右岸を見つめる 写真13 海岸に立って、正面・渡島半島を見る  

遥「……。改めて思うけど、小幌の海岸は観音さま以外にはなにもないわよね……」
巡「それは大きなミステイクってね。よぉ〜く見てごらんよ。例えば、……石が丸い」
遥「それは水辺ですからね」
巡「冗談ですよ。ほら、よく見てごらんよ。(白々しく)おそらく簡易トイレと、祭礼用のナニカの物置、
   もしくは漁師さんの物置があるし、何よりも目立っている桟橋が……!」
遥「他には?」
巡「え? 他には? え〜……、もちろん、自然がいっぱい!」
遥「否定はいたしませんけどぉ?」
巡「あはははは」
遥「笑ってごまかすな! まあ、いいけど。日常の喧噪から離れてのどかに過ごせたってコトだけは間違いないし、
  きっと、ここはずっとこんな感じなんだろうね。人が住んでる場所とか、大都会とかとは無縁なんだろうね。
  ひっそりと此処だけの時間が流れていく」
巡「遥って、そんなにロマンティストだったっけ?」
遥「何よ。あたしがロマンティストじゃダメだって言うの?」
巡「あ〜、別にそういうことじゃないんだけど。——でも、あれだ。突っ込んだら、面倒くさそうだから放置ってコトで……。
 と言うことで、のんびり、そよそよ〜、癒やされるなぁ〜」
遥「ふぃ〜〜」

漁船 また今度
  写真14 漁船が近づいてきた? 写真15 さよなら、また今度。  

巡「それじゃ、帰りの汽車の時間にはまだ余裕があるけど、帰ろうか?」
遥「汽車に乗り遅れたらイヤだから、帰る」
巡「はい。じゃあ、来た道を帰りま~す」
遥「やっぱり?」
巡「当たり前でしょ。行く道はさっき来た道。その道を通らなければ、ボクたちは帰れないのです。そいじゃ、復路へレッツウォーキング!」
遥「はぁ~い」(しぶしぶ

禁密漁 鉄路
  写真16 密漁をしてはいけません。 写真17 小幌駅  

遥「それにしても、このけもの道はちょっと……」
巡「こんなんでへばるなんて、普段から運動不足なんだよ、姉さんは」
遥「う、うるさいわね。黙って歩けばいいんでしょっ!」
巡「別にそこまでは言ってないんだけど……。遥がそう思うのなら、それでいいけど。沈黙されちゃうと今度はボクがつらいなぁ」
遥「自業自得、口は災いの元ってコトでしょう?」
巡「これって、自業自得とか、口は災いの元っていうような範疇なの? と、いいますか、遥の自分勝手だよね。
  そもそも遥が無精しないでしっかりトレーニングをしていたら、こうはならなかったはずなんだから!」
遥「はいはい。どうせあたしは無精者ですよぉ~だ。べ~っだ!
巡「こんなんだから、いつまでたってもカレシができないんだよな」
遥「何か、言いました?」
巡「いいえ、ナンニモ。っと、小幌駅に無事に辿り着きました。じゃ、向の汽車が来るまで、どっかそこら辺で一休み……。
  って、あれ? どうしたの、姉さん?」
遥「――。あつい……」
巡「え?」
遥「あついの。こんなに暑いんだったら、海辺にいた方がよかったかも」
巡「また、無茶苦茶言ってるよ、この人は。しかし、あれだよ。今から、海辺に涼みに行ったら、
 帰りの汽車には乗れないから、我慢しなさい。山間は涼しい方だから、死にはしないよ?」
遥「それは死にはしないでしょうけど……。暑いものは暑いのっ!」(じたばた
巡「わがままなんだから」
遥「ここに来たいって最初に言ったのは巡で、そのわがままは聞いてあげたんだから、あたしのわがままも少しくらい聞いてくれたっていいじゃない!」
巡「いや。聞けるわがままと聞けないわがままがあるから」
遥「……。キミのわがままは聞いてあげた……」(じとーっ
巡「え?」
遥「キミのわがままは聞いてあげた!」
巡「はいはいはい。今度はボクが遥のわがままを聞いてあげればいいのね。って、この状況下でおねーたまの無理難題をどう解決したら……。
  まあ、とりあえず、手でぱたぱたと……」
 
  写真18 美利河浜、幌内トンネル方向 写真19 礼文崋山トンネル方向  

遥「何か、ピーピー鳴り出したよ」
巡「あ~、もうすぐ、列車が来るんだよ。どっちのトンネルから聞こえてくる?」
遥「――。美利河浜って書いてある方から」
巡「お。構内踏切の遮断機が下りたね。じゃ、ちょっとそっちに行ってくるから」(嬉々として
遥「撮り鉄魂にでも火がついたかしら……」
遥「また、鳴ってる。今度は……向かって右……、礼文崋山と書いてある手前の方から」
巡「キター。と思ったら、特急北斗でしたね。え~と、時刻表によるときっと、おそらく次の汽車が帰りのだよ」
遥「ああ……、やっとお迎えが来るのね……」
巡「何か、その言い方は引っかかるね。もっとマシな言い方はなかったの?」
遥「ありません。アタクシの気持ちを的確に伝えるにはこの言葉しかないのです!」
巡「はぁ……。ま、いいや。鉄板でできた方のホームで待っててやってください。きっと、まもなく、姉さんの言うお迎えの汽車がやってきますよ」
遥「そう願いたい物ですわ」

特急・北斗 特急・北斗
  写真20 特急北斗(下り 写真21 特急北斗(上り  

巡「ところで、姉さんは知ってるかな?」
遥「何を〜って。あ〜、だいたい何だかわかったような気がする。あれでしょ、あれ。きっと、今は亡きあのお方。
  今は住んでいた痕跡も何も残っていないみたいだけど、20年以上もこの小幌の地に住んでいたという小幌の仙人さま」
巡「お〜。テレビドラマとかは全く興味ないくせに、こう言うことはこう言うことはよく知ってるよね」
遥「ほめてるのか、けなしているのかどっちなのよ。と言うか、仮にも鉄オタですから。
  鉄道にはあまり関係なくてもそのその周辺情報はいろいろと集めているの。常識でしょ?」
巡「はぁ……。遥に常識を説かれるとは思いませんでした」
遥「余計なお世話さんです」

トンネルの中
  写真22 ライトが見える 写真23 キハ150-106  

遥「と。また、ピーピーって鳴り始めて……」
巡「あー、来たね。白煙の向こう側、トンネルの奥にキラリと光るライトが見える。時間的に今度こそ、お迎えの列車だね。
  姉さん、スタンバイ。忘れ物をしたら大変だよ」
遥「あたしを忘れていかなければ、いいわよ」
巡「え? ――じゃあ、忘れて行っちゃおうかな~」
遥「イヤよ、イヤ。こんなところに一人にしないで!」
巡「置いていかないよ。それに、姉さん、自分で歩けるでしょ」


静狩駅

遥「と言うことで、小幌駅から無事に静狩駅に帰ってきました」
巡「無事だったでしょ。けもの道から転げ落ちることも
  なかったし、熊に襲われることもなかったし、
  通過列車にも轢かれなかったし、パーフェクト!」
遥「まぁ、途中は散々だったような気がするけど……?」
巡「イイエ。何もかもフツーでございました!」(きっぱり
遥「キミがいいなら、別にいいんだけど……。
  遥と巡の鉄道探訪の旅、第1回はこれにておしまい。
  第2回があったら、その時にまたお会いしましょー」
巡「ではでは、また!」

  写真24 帰ってきた静狩駅    
 

Nine Tails Project